PoRa
1898年。僕たちが発見された年。 少し早く発見された僕は、僕の「残りかす」から君の存在を感じていた。 僕はそのとき……彼にとっての先輩であった時から。 彼の輝きに気づいていた。 彼は、僕なんかよりずっと輝ける立場にいける。 そう、確信していた。 ……夢を見た。もう100年以上前の夢だ。 僕、恵治は、ベッドの中で手を何度も握る。 夢のショックで僕の元素……ポロニウムは漏れてないかと確認する。どうやら大丈夫のようだ。 ふと時計を見ると、ラジウム……羽柴君を迎えに行く時間のギリギリになっていた。 「やば……早くいかないと」 パジャマを脱いでスーツに着替えると、ポケットの中のたばこを確認する。 最近は羽柴君への影響も考えて電子たばこにしたものの、まだなれない。 「あー……ニコチンほしい」 そうつぶやきながら、玄関の扉に鍵をした。 「今日は羽柴君もちょっと遅いのかな」 稀気大学の校門前で僕は待っていた。 今日の授業に出ないと単位がやばいからといっていたのは、羽柴君の方だ。 この後は羽柴君の出るコンサートのリハーサルがある。 それにしても羽柴君が遅い。 校門の外にたちながら、電子たばこを吸う。 ふぅ……と息を吐くと、冷たい空気の中にたばこの煙が混じった。 タッタッタ…… 聞き覚えのある足音が聞こえる。 「恵治さん!すいません、ちょっと課題でたんで必要な文献図書館で印刷してて……」 羽柴君が、鞄の中に無造作に入れられた紙の束を見せる。 「恵治さんのたばこ終わったらいきましょう。俺のせいとはいえ、リハに遅れるわけにはいかないので……」 「いいよ、すぐ行こう」 僕はたばこの加熱を止めると、羽柴君を車に乗せた。 車の後部座席に羽柴君は座る。 後部座席で紙をめくると、読み込み始める。 「羽柴君、そんなことしてると酔うよ」 「これくらいよゆーです。それに多少酔ってもちゃんとやりますよ。恵治さん」 そう言って、羽柴君は紙に向かい合う。 酔うのは心配だが、こういわれては仕方ない。 僕は、ミントタブレットを羽柴君に手渡す。 「ん、さんきゅ」 羽柴君はミントタブレットを一つ取り出して口に含むと、書籍のコピーに集中した。 コンサート予定の会場についた。 地下駐車場に車を停めると、羽柴君を車から降ろす。 「ほら、やっぱりちょっと酔ってるじゃないか」 「うぇ……わかってるよ」 「少し休むかい?」 「時間はある?」 少しだけというと、楽屋で休むと言って楽屋に向かう。 今日は衣装合わせもあるから、そんなに長くは休めないが、少し横になる羽柴君を見る。 「今回の衣装もとても素敵に作ってもらえたよ、羽柴君」 そう言って僕は今回の衣装を取り出す。 「毎度毎度……いい衣装を作ってくれる人たちには感謝しかないね」 顔の上に腕を置いて、横目で衣装を見る羽柴君。 「ちょっとひらひら多めだね。着るの難しいかも……」 僕がそう言って衣装を広げると、少しフリルの多い衣装の全貌があらわになる。 「ま、イメージカラーとはあってるし、今回のテーマにもあってるんじゃないか?」 羽柴君が多少休めたのか、僕の手から衣装をとる。 「恵治さん、着るの手伝って下さい」 「当然」 服を脱いだ羽柴君の肌は白い。 羽柴君では手の届かないボタンを止めてあげると、羽柴君は可動域を確認する。 「どう?恵治さん似合ってますか?」 満足げな表情で笑う羽柴。 その笑顔は、非常にまぶしいものだった。 「きれいだよ。羽柴君」 やっぱり、君は輝く舞台がふさわしい。 僕はそう思う。 僕はあくまで裏方で、羽柴君をサポートするのが仕事だ。 「射延さんーリハ始まりますよ~!!」 遠くからスタッフの声が聞こえる。 「今行きます!」 少し不安そうな羽柴君の背中を押す。 「大丈夫、うまくやれるよ」 そう言って、僕は羽柴君の背筋を伸ばさせ会場に送り出した。 コンサートホールの隅っこでリハを見学する。 いつも通り声も出ている。ダンスも完璧。これなら明日のコンサートも問題なくこなせるだろう。 安心した僕は、会場の外に出てたばこを一本吸う。 羽柴君とこの体ではじめに会ったときにたまたま吸っていた銘柄の箱。 電子たばこにしてからも、たばこを吸いたくなった時には、これ以外を吸えずにいた。 ふぅーと煙を虚空に吹くと、あっという間にかき消されてしまった。。 コンサートホールから漏れる音楽が止まる。リハーサルは終わったようだ。 あと一本吸いたかったな……そう思いつつも、羽柴君の楽屋へ向かう。 「恵治さん、リハ見てもらえました?」 「ああ、羽柴君も完璧なしあがりだったよ」 よっしゃ!というような顔をする羽柴君の赤色の頭をなでる。 「着替えようか。課題もあるだろうし、家まで送るよ」 「ありがとうございます恵治さん。でも、恵治さんちょっと相談いいですか?」 少し深刻そうな顔をする羽柴君。 ちょっと手招きをすると、耳元でささやく。 「実は最近ストーカーがいるみたいで……今日は恵治さんの部屋に泊めてほしいなって」 そう言って、羽柴は僕の手に指をからまで言う。 「それは大変じゃないか!今は大丈夫なのか?」 僕が慌てて羽柴君に聞くと、「大丈夫なんだけど怖くって……」という声が漏れるのに気づく。 この子を守らなきゃいけない。 そう思って、僕はスーツの上から防寒対策で着てたコートをかぶせて、地下駐車場の車に向かった。 助手席に座る羽柴君。 大抵、相談事や甘えたい時は助手席に座るのは、羽柴君の癖だ。 上着のフードで目立つ赤髪を隠す羽柴は、外の方をキョロキョロ見てせわしない。 「気になるのかい?ストーカー」 「はい……でも、今はいないみたいです」 安堵したような息を吐く羽柴君。 「まあ、僕の家ならストーカーも来ないよ、安心して」 そう言って、信号待ちのあいだに羽柴君の頭をなでた。 羽柴君は安心したような表情で目を閉じる。 普段学生として、何よりアイドルとして活動している以上、易々とこんな弱みは見せられない。 これは、プロデューサーである僕だけが知ってる表情。 思わず、僕の顔から笑みがこぼれてしまった。 車を専用のガレージに入れて扉を閉める。 羽柴君の姿を見られないことを確認し、僕はガレージ側の入り口から羽柴君を導く。 羽柴君は、ようやく気が抜けると思ったのか、かぶってた上着を脱ぎ家に上がる。 「何度来てもきれいにしてますね、恵治さんの家」 羽柴がリビングのソファに腰掛けて話しかける。 「いや、荒れてるときはひどいもんだよ」 「恵治さん、一つ調べ物思いついたら書籍ひっくり返しますもんね」 僕はヤカンを火にかけると、羽柴君に尋ねる。 「羽柴君は紅茶だよね。アップルティーしかないけどいいかい?」 「ん、できれば蜂蜜も添えて」 ヤカンから激しく水蒸気が上がると。あらかじめ暖めておいたティーポットに茶葉と湯を入れる。 お茶が沸く間に、僕はスーツを着替える。 もう裸なんてお互い見飽きているので、堂々と羽柴君の前でベルトを外す。 「なんやかんやで恵治さんって意外と筋肉ついてますよね」 そう言って、羽柴君が僕のおなかをなでる。 うっすらと筋の入った腹筋をなでられると少しくすぐったい。 さっと羽柴君の手を離させると、部屋着のパーカーに着替える。 そうしているうちに、紅茶の香りが漂う。 2つのティーカップに注ぐと、片方には蜂蜜をい入れてスプーンを刺す。 「はい、羽柴君。アップルティー蜂蜜入りだよ」 まだ湯気が上がるティーカップを大事そうに両手で包み込む羽柴君。 ふぅふぅと息を吹くと、一口含む。 「おいしい。やっぱり恵治さんの入れる紅茶はおいしい」 「あはは、よかったよ」 紅茶を飲み終えると、ソファに深く腰掛ける羽柴君。 僕は、ティーカップを置くと、羽柴君を後ろから抱きしめる。 「明日はコンサート本番だろ?ベッド貸すからゆっくり寝な」 「恵治さんは……」 「僕はソファで寝るよ」 すると、羽柴君は残念そうな顔をする。 「一緒に寝てほしかった?」 僕は羽柴君に尋ねる。 「うん……ちょっと緊張で寝れないから一緒に寝たい」 僕はふぅと息を吐くと、羽柴君を寝室に連れて行く。 ベッドで先に横になった羽柴君は、両手を広げる。 「ぎゅーって、して?」 顔が紅潮している。甘えるのになれてないのか、恥ずかしがっているのか、それとも期待の表れか。 羽柴君の腕の中に僕は身を預ける。 そのまま羽柴君の背中に手を伸ばし、抱きしめる。 そして、背中をさすってあげると、羽柴君は安心したように目をつぶる。 すぅ……と、寝息を立てる羽柴君の前髪を少しかき分ける。 目の下に少しのクマ。少し乾いている唇。 「ゆっくり休ませてあげなきゃな……」 そう思ってそのまま、二人でベッドで眠りについた。 朝起きると、羽柴君はまだ眠っていた。 彼の体調管理も僕の仕事…… そう思って、ベッドから起き上がると、冷蔵庫を開けた。 「ん……おはよ……恵治さん」 しばらくして起きてきた羽柴君は、目をこすりながら多すぎる朝食のならぶ食卓に座る。 パンケーキ、サラダ、コンソメスープ、目玉焼きとウインナー…… 「恵治さん、作りすぎじゃないですか?」 「いや、なんかどうしても一回作り始めたら止められなくて……」 ふぅん、と羽柴君が言うと、スプーンとフォークをとる。 最後にトーストとコーヒーを机に置くと、僕も朝食を食べ始めた。 ふわふわのパンケーキの甘みが口の中に広がる。 カップに入ったコンソメスープは温かく湯気を立て、二人の間を少し曇らせる。 すこし羽柴君がもじもじしているような気がする。 「どうした?羽柴君」 少し照れながら、羽柴君が細長い箱を手渡してくれる。 「あけていいのかい?」 尋ねて見ると、羽柴君はうんとうなずく。 開けると、中に入っているのは腕時計だった。 「今日現場にいくときは、それをつけえててください」 「?うん、いいけど」 そして左手首に腕時計を巻くと、羽柴君は満足げに笑った。 「……あ」 腕時計の時間をみると、そろそろ出発の時間だった。 急いで残ってた食事を口の中にかきこむと。羽柴君を助手席に座らせコンサート以上に連れて行った。 僕は客席の通路の壁にもたれてコンサートの始まりを待つ。 赤のスポットライトがともると、壇上にいる羽柴君の髪が輝く。 目を開く。声が響く。 会場は盛り上がり黄色い歓声があがる。 曲調を変え、次から次へと歌い続けていく。 そして、MCが入る。 「今から、目に入った一人を壇上に上げようと思います!」 そう言って、羽柴君がステージから降りてくる。 そして。まっすぐに僕の方に向かってきた。 「さ、行きましょ?」 何が起きたかわからない僕の手を引いて、羽柴君は僕を壇上に上げる。 「僕の、大切な人、です!」 羽柴君がそう言うと。今日一番の黄色い悲鳴が上がった。 「これは変な熱愛報道が出るんじゃないかい?」 僕は一歩先を歩く羽柴君に聞く。 「でも、これでストーカー問題は解決じゃない?」 そう言って、羽柴君が僕の耳元でささやく。 「ずっと尊敬してますよ、センパイ」 ふぅと僕は諦めの息を吐く。 「わかったよ。ずっと一緒にいよう」 羽柴君は目を細める。 「よろしくお願いします」 その後、恵治に聞こえない声で羽柴はつぶやいた。 「ま、ストーカーなんて嘘なんだけどね」