100年前のチーム希ガス
かつて。今から百年ほど前の話だ。
チーム希ガスは一度全員死に、生まれ変わった時には違う国に生まれていた。
ある程度近くに集まってはいたものの、別の国に生まれたために、その当時に起きた戦争の結果、チーム希ガスはお互いに争い合うことになった。
色々な国の思惑が混ざり合った結果、チーム希ガスはアルゴンのエル率いる不活性チームと、キセノンのゼノ率いる比較的化合物を作るチームに分かれた。
「ゼノ指揮官、私を呼び出したということは、また暗殺命令でしょうか」
ゼノの横にはラドンのラディが立っている。まだ二十にも満たないのに働き者だ。そう思いながらクリプトン、クリプトはゼノに話しかける。
「ああ、クリプト。君にはこの前線近くの城を根城にしている部隊長を殺してきてもらいたい。ただ……」
ゼノが苦虫を噛んだような顔をする。
「ただ、なんですか?暗殺なら得意ですよ、私」
「いや、なんの因果だろうな、これは。ラディ、資料を」
そう言ってラディが抱えている紙をクリプトに渡す。
「これは……無理です!」
「だが、やってもらわなければならない」
ゼノは苦しそうな顔をする。
「これは、“彼“の陰に隠れていた君にしかできない仕事だ」
「……はい」
クリプトは、渋々頷いた。
紙には敵の部隊長と、その部下の写真が挟まっていた。
全員、見覚えのある顔だった。
ここからさらに三十年ほど前、ある研究所でチーム希ガスはほぼ同時に生まれた。
その時はお互いに何者かわかってないが、元素と呼ばれる存在であることは理解しており、自分たちは同族だと理解していた。
青から紫のグラデーションかかった髪のアルゴン。オレンジの髪でかわいい系の顔のネオン、赤紫色の髪で金色の目が特徴的なヘリウム。
当時は、元素名でお互いを呼び合っていた。
今現在は、戦争の中元素を生み出す装置として体を傷つける行為が横行しているため、お互いに偽名を使おうというのが、元素たちの間では常識になっていた。
聞いた噂だが、塩素やウラン、鉛などの元素たちは手足を切り落とされたものもいるらしいとの話だ。
だから、彼らも自分たちが元素だとバレないよう偽名を使って呼び合っていた。
写真に写っていたのは、アルゴン部隊長、部下のネオンとヘリウム。
それが、前線付近の城に滞在しているというのだ。
その城から一番近い部隊であるゼノ率いる化合物組が彼らの処分を命じられた。
「日程はいつ頃がいいですか?」
クリプトはゼノに問う。ラディが口を開く。
「今夜にでも。いつ向こうが攻めてくるかわかりません。ちょうど今日は三日月ですしちょうどいい闇です」
ラディはそう言って、目を伏せた。
「本当に……どうして、こんなことに」
クリプトは腰の銃に触れると外套を翻し、部屋を後にした。
深夜二時ごろ、かつては栄えていたのか、かなり豪華な作りをしている城の中で、ネオンのニーアが見張りをしていた。
ニーアが夜目が効く。だから、こういう見張りの仕事には慣れていた。
深夜にこっそり食べる、スープも大好物だった。
ささやかな野菜を煮込んだだけのものだが、この素朴な味がニーアはすきだった。
足音を立てないようにクリプトはニーアの背後に回り込む。
銃にサイレンサーがついているのを確認すると、ニーアを背後から銃撃した。
一発当たった瞬間に強く発光したネオンの明かりを残し、六発の鉛玉がニーアを貫いた。
一発が頭に当たり死亡。
「まずは一人」
一瞬の赤の発光に気づいた者がいたのか、クリプトは物陰に身を潜ませて銃に弾を装填した。
「ニーア、どうしたんだ?」
そこに現れたのは、ラディと同い年くらいの少年だった。
金色の目が輝いたことから、ヘリウムと理解する。
クリプトは物陰からヘリウムを狙う。
「……!ニーア!エルさん!起きてくださ……」
そこまでいうと、ヘリウムは息を引き取った。
三発でヘリウムの心臓を射止めた。
城内を走る音が聞こえる。
来る。そう思って、クリプトは弾をこめる。
「リオス!」
アルゴン……エルが入ってくると、部屋の中は息を引き取ったニーアとリオス。そして、彼らを葬ったクリプトが立っていた。
「お前……クリプトンか……?」
「アルゴンさん、お久しぶりです。こんな再会は、望んでなかったんですけど」
ガチャと全弾装填したリボルバーを銃に収めると、銃口をエルに向けてクリプトは呟く。
「お前が……やったのか」
「そうですが、何か?」
「なんでもある!仲間じゃないのか、お前は……」
「今は敵です」
一発引き金を引く。エルの左腕に当たる。エルは苦しそうに顔を歪ませる。
「待ってくれ、話し合いをしよう。少なくとも希ガス同士で殺し合う必要はないだろ!」
エルが叫ぶ。
クリプトは無視してもう一度引き金を引いた。
エルの左脇腹を貫通する。
「すいません、アルゴンさん。これはあなた達をこれ以上戦争に巻き込まないようにするためなんです」
これはその場しのぎの嘘なのはわかっている。元素達は死んだらすぐに生まれ変わり、一ヶ月ほどで少年程度に成長する。
クリプトはそれでも口を止めなかった。
「ヘリウムとネオンはすでに戦線を離脱させました。あなたももうこれ以上戦争に巻き込まれる必要はないんですよ」
クリプトの顔は、聖母のように美しかった。
そう言い聞かせて、自分の罪悪感を減らすための嘘。
「だからアルゴンさん。あなたももう戦わなくていい。人を手にかけなくていい。後の処理は俺たち三人が行います。罪を全て、背負います」
銃口がエルの頭に向いた。
エルは絶望的な表情で、クリプトに話しかける。
「それだったら、お前達は救われるのか?」
一瞬、クリプトの銃口が逸れる。
「俺らはもしかしたら戦争に巻き込まれずに済むかもしれない。でもお前達は、これからも人を」
「覚悟の上です」
決意を決めたような顔で、クリプトははっきりと言った。
「アルゴンさん。次は、平和な世界で会いましょう」
引き金を引いた。
闇に紛れて帰っていった。
目からは自然と涙が溢れていた。
味方殺しの罪。
いや、彼らは敵だと自分を偽って、なんとか呼吸を整える。
朝日が登ろうとしている。
東の空がうっすらと明るんできた。
クリプトは、軍服の裾で目元を拭うと、ゼノのもとへ結果を報告に行った。
「成果は出せました。彼らを戦線排除しました」
淡々と言おうとするクリプト。ゼノはどこか楽しそうにチェスの駒を動かしていた。
「これでこの駒は排除完了だ」
そう言ってポーンが倒れる。
「ゼノ指揮官、これで、よかったんですよね?」
クリプトは自分が正しいことを証明したがっていた。
「ああ、君は正しい。我々が勝ち、平和な国をつくればいい」
ほっと胸を撫で下ろすクリプト。
「では、次の作戦だ」
ゼノが残酷にも次の命令を渡してくる……
そこからの世界は、ゼノ率いる部隊もいずれ倒れた。
死ぬ時は、全員「次こそは平和な世界で」と祈った。
次に生まれ変わった世界では、世界中で散り散りになっていた元素達が集まる街ができるという噂が元素たちの間に広まっていた。
そこに集まったとき、アルゴンはクリプトンを見かけた瞬間逃げようとした。
「おい。逃げるな」
ぐいと肩を引くと、アルゴンは目に涙を浮かべていた。
「……」
自分の罪を自覚しているクリプトンは、何もいうことはできなかった。
とりあえず、持っていたハンカチをアルゴンに渡す。
「すまない……とは言えないけど、これでも使え」
クリプトンは、アルゴンから視線を逸らす。
そのうち、キセノンやヘリウム、ネオンも集まってくる。
ラドンは、少し後にこの街で改めて生まれた。
体を切り刻まれた元素であるウランが、同じように利用されたプルトニウムと共に作った街、稀気市。
世界の元素達の安定と平和を祈ったこの街で、チーム希ガスは活動を始めた。